迷走中の30女生きる

Over30、独身、子なし女のそれなりに幸せな日々を綴ります。

本レビュー「おもかげ 浅田次郎著」

浅田次郎さんの本「おもかげ」を読みました。

この本と出会ったきっかけは家族。

家族から面白いよと言われ、読了したので感想を書きます。

 

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≪内容≫------------------------------------------------------------------------------------------

「忘れなければ、生きていけなかった」浅田文学の新たなる傑作、誕生――。

定年の日に倒れた男の〈幸福〉とは。心揺さぶる、愛と真実の物語。商社マンとして定年を迎えた竹脇正一は、送別会の帰りに地下鉄の車内で倒れ、集中治療室に運びこまれた。今や社長となった同期の嘆き、妻や娘婿の心配、幼なじみらの思いをよそに、竹脇の意識は戻らない。一方で、竹脇本人はベッドに横たわる自分の体を横目に、奇妙な体験を重ねていた。やがて、自らの過去を彷徨う竹脇の目に映ったものは――。

「同じ教室に、同じアルバイトの中に、同じ職場に、同じ地下鉄で通勤していた人の中に、彼はいたのだと思う」(浅田次郎

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以前に映画を見た「地下鉄≪メトロ≫に乗って」(浅田次郎著)と似ている作品でした。

「地下鉄に乗って」は”父と子””現在と過去”、本作は”母と子””生と死”を描いています。 興味がある方は二作とも面白いからぜひ読んでほしい。

 

 戦後に生まれ、自分の出自に劣等感を持ち、高度経済成長期にバリバリ働いていた主人公 竹脇。

そんな彼と彼を取り巻く人たちが出てきます。

会社の同期でもある親友、同じ養護施設で育った幼馴染、妻、娘、娘婿、看護師さんをはじめ、主人公の意識が出会う隣のベッドにいる病人、マダムなど。

周りの人からの主人公 竹脇の評価、人との関わりで見えてくる竹脇の様相、戦後の自分たちや戦争体験した親世代の時代が見えてきます。

戦争も高度経済成長期も体験していない私にとっても、「あーそうだったんだろうな」とどこか懐かしく、親しみが感じられます。

 

この小説の中で「みんなが不幸ときの不幸と、みんなが幸せなときの不幸は違う」という言葉が出てきます。後者のやりきれなさを感じる印象的な言葉でした。

「高度経済の申し子の自分が不幸なわけない」と思っている主人公 竹脇に対しての言葉で、竹脇が自分が頑張ってきた、つらい経験をしてきたと肯定するのに一役買っています。

自分のことを語らず、できるだけ目を背けて生きてきた主人公 竹脇にとって、意識不明で寝たきりになって得た出会いにより、自分の思いを吐き出せるようになったシーンは胸にグッと来ました。あと、最後の数ページも。

 

あとは、人生、”生と死”に地下鉄が重要な役割を担っているのが良かったです。

≪人生における地下鉄≫

主人公 竹脇はずっと地下鉄で通勤し、自分の送別会から帰る途中の地下鉄で倒れました。意識のない竹脇の面倒を見ている看護師さんとは実は二十年毎朝通勤電車で一緒だったという関係で、お互いに他人以上の親しみを持っています。

私も勤続年数=電車乗車年数だし、毎朝電車が同じ人に対してどこか”同志”のような親近感を持っているので、電車や電車の中で会う人たちが無意識に人生の一部になっているなと思いました。

それってすごい出会い。

それってすごい関係。

 

≪生と死における地下鉄≫

作品内で、登場人物が駅のホームに自分の幸せだった頃の姿で大切な人と一緒にいて、地下鉄に乗って去っていく描写がありました。生から死への移動が地下鉄でなんて、現実的に想像できるけどファンタジー感もあって素敵な描写だな。

私が死ぬときは誰が迎えに来てくれて、どの地下鉄に乗るんだろうか。

まだまだ死にたくはないですが、そんなことを考えると死ぬときの楽しみがあって素敵なことだなと思いました。

 

登場人物に嫌なヤツが出てこないので、落ち込んでいるときでも読みやすい作品だと思います。皆幸せになってほしいと優しい気持ちになれる作品でした。

おもかげ (毎日新聞出版)

おもかげ (毎日新聞出版)