砥上裕將さんの「線は、僕を描く」を読み終えました。
≪内容≫------------------------------------------------------------------------------------------
両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介は、アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。
なぜか湖山に気にいられ、その場で内弟子にされてしまう霜介。
反発した湖山の孫・千瑛は、翌年の「湖山賞」をかけての勝負を宣言する。
水墨画とは筆先から生み出される「線」の芸術。描くのは「命」。
はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は線を描くことで回復していく。そして一年後、千瑛との勝負の行方は。
--------------------------------------------------------------------------------------------------
ブランチBOOK大賞2019年受賞をTBS「王様のブランチ」で見た時に、内容が気になったので手に取りました。
作者の砥上裕將さんは実際に水墨画家なので、水墨画の世界が瑞々しく描かれています。内容を簡単に伝えるのならば「青春×水墨画×再生」だと思いました。
文体がとても分かりやすく、癖もなく、小説を普段読まないひとにも読みやすい作品でした。
水墨画の世界を知らない私にとって、”墨と紙の白黒の世界なのに描いた作品が色づいて見える”というところに衝撃を受けました。嘘だと思って調べてみると、たしかに白黒の朝顔が私には紫に見えました。す、すごい…。
線で描くのに、人によって同じ花でも表現の仕方、見え方が違うというのも面白いです。
また、古来からある水墨画を題材にしているからか、節々の表現がとても綺麗で繊細で心にしみました。
最初に「青春×水墨画×再生」と表しましたが、青春と再生は下の意味で使っています。
≪再生≫
家族を亡くし、生きることへの絶望を抱えている主人公が水墨画を描くために自分と向き合うことで自分を再認識し、未来を考えられるようになること。
≪青春≫
言わずもがな、主人公の成長&ライバルとの競い、高め合い&友情&恋愛です。
私の好きなのは、水墨画の巨匠・篠田湖山先生が何故、主人公の青山くんに声をかけたのかがわかる場面です。ここは私の胸にジーンときました。
また、その前の場面で、菊を描けず悩んでいる青山くんに対して、篠田湖山先生が言った「形ではなく、命を見なさい」というセリフも心にしみわたります。
あらゆる命に対して、同じ時はない今その一瞬を捉えて描く、とてもかっこいいです。
水面に水滴が落ちた時みたいに、静かだけど心が動く一冊でした。
ぜひ読んで頂きたいです。